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東京高等裁判所 平成7年(ネ)4033号 判決

控訴人(原告) 株式会社ナチュラルメートの会 外一名

被控訴人(被告) 糸島農業協同組合

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙目録記載(一)の標章をいちご及びいちごの包装に付し、又は同標章を付したいちごを譲渡し、引渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示してはならない。

3  被控訴人は、控訴人らに対し、金一億三二七九万一八八〇円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  第2項ないし第4項につき仮執行宣言。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張の要点は、以下に訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人ら

1  原判決六丁表四行目〔知裁集二八巻四号七〇六頁一七行目〕末尾の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「商標権が保護される理由が「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、・・・需要者の利益を保護することを目的とする」(商標法一条)ことから、商標が自他商品識別機能を有する態様で使用されているか否かの判断は、標章を使用する者の主観的意図に基づくのではなく、当該商標を付された商品の最終需要者である一般消費者が自他商品識別機能を有すると認識し、その出所を混同する可能性があるか否かに基づくべきである。そして、自他商品識別機能を有することを前提とする誤認混同のおそれというためには、抽象的なおそれがあれば足りるのであるから、一般消費者が自他商品識別機能以外の機能のみを有すると認識することが明らかである場合を除くほかは、自他商品識別機能を有するものとして商標法の保護を与えるべきである。」

2  同七丁裏七行目〔同上、七〇七頁一三行目〕の「到底いえず、」を以下のとおりに改める。

「到底いえない。土壌改良剤であるカルゲンの販売量は、昭和五二年四月ころまでは高くなく、同年で約五五一九トン、また、ピークの昭和五四年でもせいぜい約一万一二〇三トンであり、昭和五四年以降はわずかな例外を除いて毎年減少している。これは、カルゲンと同じくカルシウムを含む肥料の一種である炭酸カルシウムの平成元年の生産量が一〇〇万トン以上であることからすると、肥料の販売量としては、カルゲンの販売量は微々たるものである。

また、カルゲンの製造元であるネオゲン株式会社は、昭和五二年以降「天然カルシウムカルゲン使用」と記載されたシールの作成を開始し、この時期以降、カルゲンを使用した生産品に右シールが付されることもあるようになった。

しかし、シールの貼付はなかなか思うように進まなかったのであり、カルゲンを使用して栽培された野菜等に右シールが一般に貼付されていたとはいえない。さらに、ネオゲン株式会社の規模、組織が資本金わずか五〇〇万円、従業員数はアルバイトや事務職員も含めて二四、五名程度、営業所は東京と大阪の二か所のみという程度の小さなものであったことからしても、カルゲンが周知性を獲得することはありえない。」

3  同八丁表九行目冒頭〔同上、七〇七頁一九行目〕の「ある。」の次に、以下のとおり加える。

「右のとおり、一般消費者は「カルゲン」が土壌改良剤の名称であることを知らないのであるから、被控訴人標章中の「カルゲン」のみが目を引き、「カルゲン」の文字の表示態様と「天然カルシウム」「使用」の文字の表示態様とが大きく相違すること等からすると、「カルゲン」という言葉が「天然カルシウム」あるいは「使用」という上下の言葉とつながるものであることを認識するはずもなく、したがって、被控訴人標章が当該いちごに天然カルシウムカルゲンを使用していると理解することはおよそありえない。

一般消費者が被控訴人標章中でひときわ目立つ「カルゲン」の文字及び頂部のいちごの図形を目にした場合、被控訴人標章をもって当該いちごの商品商標であると認識するのが最も自然であり、そうでないとしても、当該いちごの販売業者の営業商標であると認識するものと解される。」

4  同一六丁裏六行目〔同上、七一二頁三行目〕の「されている。」の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「本件における被控訴人標章の使用態様において重要なのは、

〈1〉 「博多とよのか」をはじめとする他の表示は(「天然カルシウム」「使用」を含め)透明な皮膜に白色で印刷され、

〈2〉 唯一「カルゲン」のみが緑地を背景に白色で印刷されていること、

〈3〉 「カルゲン」の表示の位置は中央部やや右下の要部にいちごのイラストと共にあること、

〈4〉 その書体はデザイン化された書体であること、

〈5〉 「天然カルシウム」「使用」の語は「カルゲン」の記載の上下にあるものの、緑地の外に置かれ、かつ通常のゴシック活字体が用いられ、カルゲンに較べ数段に小さく扱われていること、である。

したがって、被控訴人標章は、商品の要部にあり、かつ、特に目を引く「カルゲン」の文字によって、商標としての差別化を意図しているのに比し、「天然カルシウム」「使用」の語は看取されにくい存在にすぎないから、商品の生産方法を「普通に用いられる方法により表示する」ものでないことは明らかである。」

二  被控訴人

1  原判決一一丁表七行目〔同上、七〇九頁八行目〕末尾の次に、以下のとおり加える。

「本件訴訟で問題とされるべきは、本件登録商標が登録された平成二年八月三〇日を基準日とし、それ以降、事実審の口頭弁論終結時までの間におけるカルゲンの使用、販売状況がどのようなものであったかである。その意味で、昭和五一、二年ころからカルゲンが多量に販売され、途中、一度も中断することなく、現在に至るまで二〇年近くの長きにわたり、販売使用されて、その生産物が出荷されている事実は重要である。

なお、控訴人らが販売量を比較して主張する炭酸カルシウムは、元来、汎用性の高い肥料であり、カルゲンとはその成分、用途、性質などカテゴリーを全く異にするものであるし、ネオゲン株式会社の営業規模も、カルゲンの周知性の有無とは関係がない。」

2  原判決一二丁表五行目〔同上、七〇九頁一七行目〕の「気付く筈であり、」を以下のとおりに改める。

「気付く筈である。また、「天然カルシウム」「使用」と「カルゲン」とでは、文字の大きさ、デザインに差異が存するが、三段組みの場合には、一般に上段、中段、下段と順次称呼されるのが自然であり、本件の場合も、「天然カルシウムカルゲン使用」と、一連のものとして理解されるものである。」

第三証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。

その理由は、以下に訂正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決二五丁裏七行目〔知裁集二八巻四号七一六頁一七行目〕末尾の次に、行を改めて、以下のとおり加える。

「さらに、成立に争いのない乙第三七ないし四〇号証によれば、本件商標の設定登録に先立つ昭和五六年二月ころ、既に九州を中心とする一般紙において、土壌改良剤カルゲンを使用した「カルゲン農業」という用語が、使われていたこと、昭和六〇年六月ころには、カルゲン栽培が市場、小売業界で評価を得ていたこと、昭和六三年六月ころには、北陸金沢を中心とする一般紙においても、消費者に対して、天然カルシウム入りの土壌改良剤カルゲンを使用した作物の良さについてのPRがされていること等の事実が認められる。」

2  同二七丁表九行目〔同上、七一七頁一四行目〕の「ところで」から二八丁表二行目〔同上、七一七頁二〇行目〕末尾までを以下のとおりに改める。

「控訴人らは、土壌改良剤「カルゲン」の販売量及び評判に関して主張し、カルゲンが周知性を獲得することはあり得ない旨主張したうえ、一般消費者は「カルゲン」が土壌改良剤の名称であることを知らないのであるから、被控訴人標章中の「カルゲン」のみが目を引き、「カルゲン」の文字の表示態様と「天然カルシウム」「使用」の文字の表示態様とが大きく相違すること等からすると、被控訴人標章が当該いちごに天然カルシウムカルゲンを使用していると理解することはおよそありえない旨主張する。

しかし、本件透明樹脂フィルムであることに争いのない甲第四号証及び本件透明樹脂フィルムをいちごのパック詰め容器に付した状況を撮影した写真であると認められる乙第三〇号証によれば、本件透明樹脂フィルムにおいてひときわ目立つのは、まず、上部に印刷されたいちごの品種を表す「博多とよのか」の文字であり、次に、一群として、下部上段に印刷された被控訴人標章、下部下段に印刷された販売者の表示である丸に囲まれた「糸」、デザイン化された「JA」及び「JA糸島」の文字、並びに産地を表す「福岡」の文字を図案化し字抜きしてある図形であることは明らかであって、被控訴人標章中において「カルゲン」の文字が「天然カルシウム」「使用」の文字より目だつとしても、本件透明樹脂フィルム全体のなかで、「カルゲン」の文字が被控訴人の販売するいちごの商品商標であると一般消費者が認識する態様で表示されているとは認め難いところである。

仮に、一般消費者が、カルゲンの表示に接した場合、カルゲンが土壌改良剤であることを知らないため、その記載の意味内容を直ちに理解できない場合が相当あるとしても、右各証拠によれば、そのような場合でも、被控訴人標章以外の印刷部分の記載、すなわち、「博多とよのか」「福岡」「JA糸島」などの品種、産地、生産者の名前などの記載との対比において、三段に並んだ中段の「カルゲン」の文字と、上段にある「天然カルシウム」、下段にある「使用」の記載を一連のものと理解し、被控訴人標章は、いちごについて「天然カルシウムであるカルゲンを使用したものである」との商品情報を得ることができるのものと認められる。

控訴人らは、一般消費者が自他商品識別機能以外の機能のみを有すると認識することが明らかである場合を除くほかは、自他商品識別機能を有するものとして商標法の保護を与えるべきであると主張するが、自他商品識別機能の有無は具体的な事実関係の下に判断されるものであって、本件においては、前示のような具体的な事実関係の下で被控訴人標章の使用は自他商品識別機能を有するものと認められないのであるから、控訴人らの主張を前提としても、被控訴人標章の使用をもって本件商標権の侵害ということはできない。控訴人らの主張に沿う甲第二二号証(「『カルゲン』表示と商標権侵害成否」と題する意見書)も、一つの意見を述べたものに止まり、上記認定判断を揺るがすものではなく、その他上記認定判断を覆すに足りる証拠はない。」

二  以上のとおり、被控訴人標章が被控訴人商品であることを識別させるための商標として商品に付されているとすることはできない、とした原判決の認定判断は正当であり、控訴人らの主張は理由がない。

よって、控訴人らの請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野利秋 芝田俊文 清水節)

【参照】原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 原告らの請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

1 被告は、別紙目録記載(一)の標章をいちご及びいちごの包装に付し、または同標章を付したいちごを譲渡し、引渡し、又は譲渡もしくは引渡しのために展示してはならない。

2 被告は、原告らに対し、金一億三二七九万一八八〇円及びこれに対する平成五年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一 本件は、原告らが商標権に基づいて、被告がその出荷・販売するいちごについて使用する標章は原告らの商標権を侵害すると主張して、その使用差止めと、右使用に伴う原告らの損害として原告らの登録商標の通常使用料相当損害金一億三二七九万一八八〇円を請求した事件である。

二 争いのない事実

1 原告らは、次の商標権(以下、「本件商標権」といいその登録商標を「本件商標」という。)を有している。

登録番号 第二二五八八三二号

出願日 昭和六一年七月一七日

出願公告日 平成元年一〇月二六日

登録日 平成二年八月三〇日

商品の区分 第三二類

指定商品 加工食料品その他本類に属する商品

商標の構成 別紙目録記載(二)のとおり

2 被告は、遅くとも平成二年七月ころから、別紙目録記載(一)の標章(以下、「被告標章」という。)を印刷した透明樹脂フィルム(以下、「本件透明樹脂フィルム」という。)を付した透明パック(以下、「本件透明パック」という。)に、その出荷・販売するいちごを詰めたもの(以下、「被告商品」という。)を、業として全国的に譲渡し、引渡し、及び譲渡もしくは引渡しのために展示している。

3 本件透明パックの上面の大きさは縦約一六五ミリメートル、横約一一四ミリメートルであり、本件透明樹脂フィルムの上部に、横書きの「ピュアフレッシュ」の白色文字を肩書きにして、太字で大きく「博多とよのか」の白色文字が印刷され、同フィルムの下部に、丸に囲まれた「糸」、デザイン化された「JA」及び「JA糸島」の白色文字、「福岡」の文字を図案化し字抜きしてある図形並びに被告標章が印刷されている。このうち「ピュアフレッシュ」はいちごの性質等を表示する一般的な宣伝文句であり、「福岡」はいちごの産地の表示であり、丸に囲まれた「糸」、デザイン化された「JA」及び「JA糸島」はいずれもいちごの出荷、販売者の表示である。また、「博多とよのか」は、多数のいちごの出荷、販売業者が使用する一般的ないちごの品種名であり、当該商品の内容を表示するものである。

4 被告標章は、縦約三三ミリメートル、横約二七ミリメートルの大きさであり、いちごが頂部に配された地球儀を直感させる図形に、三段横書きに上から「天然カルシウム」「カルゲン」及び「使用」の文字が配されている。右「天然カルシウム」及び「使用」の文字は、縦横ともに約二ミリメートル程度の大きさの通常のゴシック体であるが、「カルゲン」の文字は縦横ともに約五ミリメートル程度の大きさのデザインである。被告標章の配色は、無色透明の本件透明樹脂フィルム(いちごのパックに付される場合にはパックに詰められたいちごが透けて見えるため赤地となる)上に、地球儀の図形及びいちごのへたが緑色、いちごの図形、「天然カルシウム」及び「使用」の文字が白色で印刷され、「カルゲン」の文字が、右地球儀の図形の中央部の幅約六・五ミリメートルの緑色の帯状の部分に白色で印刷されている。

5 本件商標権の指定商品は、第三二類全体であり、いちごはその範囲に属する。

6 被告の本件商品の平成二年九月一日から平成五年六月三〇日までの販売総額は、四四億二六三九万六〇〇〇円である。

三 争点

本件の争点及びこれに関する当事者双方の主張は次のとおりである。

1 被告標章における自他商品の識別機能の有無

(一) 原告らの主張

(1)  商標法(以下、「法」という。)二条一項の文理によれば、自他商品の識別機能を有することは商標の要件ではなく、またこのように解さなければ法三条及び六条等との整合性を欠くこととなる。したがって、侵害商標が自他商品の識別機能を果たす態様で用いられていることは、商標権侵害の一般的及び積極的要件ではない。なお、例外的に、侵害標章の態様に関して、商標権の侵害と評価するのが明らかに不当と認められる特別事情が存在する場合には、商標権の侵害を争う者が右特別事情を主張立証した場合に限り、商標権の侵害が否定されると解すべきである。

(2)  仮に、自他商品の識別機能が商標権侵害の積極要件であるとしても、被告標章は、以下のとおり自他商品の識別機能を果たす態様で用いられている。

被告標章は、本件パックの上面において相当程度の面積を占めるとともに、いちごが頂部に配された地球儀を直感させる図形を含み、しかも、その地球儀を直感させる図形は、本件透明樹脂フィルム上唯一緑色が使用されている。したがって、被告標章は、そのデザイン性と色合いにより、本件商品を見た一般消費者の目を惹き付ける態様で使用されていることは明らかである。

そして、商標の類似性を判断するに当たっては、当該商標の指定商品の一般購入者によりその種の商品が購入される場合において普通に払われる注意力を基準とすべきところ、一般消費者が被告商品を購入する際、例えば被告商品の包装に近付いて観察するようなことは通常あり得ず、本件透明樹脂フィルムを一瞥し、その中で特に目立つ、緑色の中に浮き出た「カルゲン」の文字と品種の表示である「とよのか」の文字を読み、その後、いちご自体の色や新鮮さを確認する程度で購入するのが一般的である。仮にいちごの一般消費者が被告商品に近付いて観察したとしても、被告標章は、「天然カルシウム」と「使用」の文字を本件透明樹脂フィルムの着色のない部分に白色で小さく配し、「カルゲン」の文字のみをデザイン化し、緑色地に白色で格段に大きく配していることから、三段に横書きされた「天然カルシウム」、「カルゲン」及び「使用」の文字を一連のものとして続けて読むことはなく、「天然カルシウム」及び「使用」を続けて読み、「カルゲン」は他の二者から独立した単独の表示と見るのが通常である。そして、被告が主張する土壌改良剤としてのカルゲンについては、いちごの一般消費者の圧倒的多数が右土壌改良剤に関する雑誌の記事、新聞広告、デパート等でのフェアに触れた経験を持たず、また右土壌改良剤がテレビで宣伝がなされたこともないから、右土壌改良剤としてのカルゲン及びこれに関する知識がいちごの一般需要者に広く認識されているとは到底いえず、しかもそもそもカルゲンという言葉が造語であるうえ、数多くのいちごの出荷・販売業者のうち、被告のみが被告標章をいちごの包装に付しているものである。そこで、右のような被告標章中の「カルゲン」という文字の表示態様及び土壌改良剤であるカルゲンには周知性がないことに基づけば、被告標章中の「カルゲン」という表示は、いちごの一般消費者により、いちごの生産方法の表示として一般的に認識されるとはいえず、特定農家の栽培する特定種類のいちごの商品標或はいちごの販売業者の法人名の略称である販売標として認識されるものであって、すなわち、いちごの一般消費者に対する自他商品の識別機能を有するものである。なお、本件透明樹脂フィルム上には、「JA糸島」等の被告を表す表示があるが、これによって被告標章が自他商品の識別機能を喪失する訳ではない。商品の生産者等が自らの会社名の表示の他にその取り扱う商品の商品標をつけて一般需要者の注目を引こうとし、或は一つの商品に複数の業者が関与する場合に各業者が個々に標章を付すことも通常のことである。そこで、原告らは本件商標を付した健康食品ならびに野菜及び果物を販売しているので、右健康食品等を見たことがある者が被告商品を見ると、仮に「JA糸島」の表示が存在するとしても、被告商品に原告らが販売等の態様で関与していると解することとなる。すなわち、被告標章が自他商品の識別機能を果たす態様で用いられているため、商品の出所について誤解を生じさせることとなる。

(二) 被告の主張

(1)  商標制度の本質的機能である自他商品の識別機能及び法一条に定める法の目的に基づけば、法二条一項に定める商標とは、自他商品の識別機能を有するものとしての商標の概念が当然にその前提とされ、かつ含まれていると解される。そして、法三条の商標登録の要件を定める趣旨及び商標の本質が自他商品の識別として機能することにあることからすれば、法における商標の保護の趣旨は、商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し、その本来の機能を発揮できるように確保することにあると解すべきである。そこで、登録商標と同一又は類似の商標を商品について使用する第三者に対し、商標権者がその使用の差止等を請求し得るためには、単に右第三者の使用する商標が形式的に商品等に表示されているだけでは足らず、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要し、かつ商標権の侵害を主張する者が右要件につきその主張立証責任を負うというべきである。

(2)  被害標章は、「天然カルシウムカルゲン使用」という文字を要部として構成され、本件透明樹脂フィルム上にいちごの名称、品質、出荷者、産地等の表示と並んで表示されているところ、右標章は、被告商品がカルゲンと広く称されている天然カルシウムを主成分とした粉状体又は粉粒体の土壌改良剤を使用して栽培されたことを表示するために用いられているにすぎず、「カルゲン」という部分が独立して自他商品の識別機能として用いられているものではなく、商標として使用されているのではない。

カルゲンは、石膏を原料とした土壌改良剤であり、昭和五四、五年ころから、農家や農業関係者に知られるようになった資材であるが、被告においても、昭和五六年一一月出荷分以降のいちごにつき全面的に右カルゲンを使用することとした。そして、当時カルゲンを使用して栽培した野菜・果実等は、出荷した市場において良質品として知られるようになっていたので、市場における差別化を図るため、いちごの容器に、右カルゲンを販売していたネオゲン株式会社の作成にかかる「天然カルシウムカルゲン使用」と印刷されたシールを添付するようになり、昭和五七年ころからは、右シールの貼付に替えて、被告標章を直接透明樹脂フィルムに印刷して使用するようになった。カルゲンを使用して栽培された農産物は被告商品以外にも存在し、それぞれの商品の生産者や販売者によって、カルゲンを栽培に使用した生産物である旨の表示がなされて販売が行われている。このように、被告標章は、本件商品が土壌改良剤カルゲンを使用して栽培されたものであることを表示するために用いられているものである。

また、本件透明樹脂フィルムをパック詰めにしたいちごの上に付した場合、「博多とよのか」の白文字及び白色の小さな円が連なった先に「福岡」の文字が抜き書きされている図案がいちごの赤色に映えてまず目立つ結果となり、被告標章の緑色地はかえって目立たなくなる。そして、被告標章中の「天然カルシウムカルゲン使用」の文字は、「JA糸島」と同程度もしくはそれ以下の大きさであり、「博多とよのか」よりは小さい。したがって、実際に小売店の店頭で被告商品を目にする一般需要者は、まず「博多とよのか」「福岡」の文字標章に着目していちごの品種及び産地を認識し、被告商品を購入しようとして手に取れるような距離まで近付くことにより、丸に囲まれた「糸」、「JA」及び「JA糸島」の文字と共に被告標章を観察することになるが、「JA」或は「JA糸島」は農業協同組合を意味する著名な標章であるから、これらをいちごの出所表示と認識することは明らかであり、被告標章については、「カルゲン」の文字の上下の「天然カルシウム」「使用」の文字に当然気付く筈であり、そして土壌改良剤カルゲンは農業関係者や青果市場等の流通関係者に広く知られており、また昭和五五年ころから福岡県内の百貨店等で一般消費者も対象としてカルゲンを使用して栽培した野菜や果実等の広告宣伝が行われていたことから、「カルゲン」の表示を天然カルシウムの名称(商標)であって、いちごの栽培に際し、ないしはいちごの添加物等として、良質ないちごを供給するために使用された物質の表示であると認識することも明らかである。したがって、一般需要者が、本件透明樹脂フィルム上のいちごの出所を表示する標章と共に用いられている被告標章を見て認識する内容は、「カルゲン」という名称の天然カルシウムが、いちごの栽培時から出荷時までのいずれかの時点で使用されているという事実であり、被告標章中の「カルゲン」の文字のみが特別に注目され、「天然カルシウム」及び「使用」の文字ならびにこれらの文字の意味から離れて天然カルシウムの名称以外の何か特別の意味を有すると解されることはあり得ない。さらに、被告標章は、当該商品であるいちごの生産に当たり「カルゲン」という天然カルシウムを使用していることにより右いちごが良質な品質を有するという事実、すなわち、「品質の表示」としても認識され得るものである。なお、本件商標を付して販売されている健康食品等を見たことがある者が被告標章を目にした場合、その中の「カルゲン」の文字から本件商標を連想することがあり得るとしても、「カルゲン」の文字がいちごに使用された天然カルシウムの名称として理解されることは明らかであるから、被告標章がいちご自体の生産者や販売者を表すものと解されることはないのであり、したがって被告標章が商品いちご自体の出所識別機能を果たすものではない。

2 本件商標と被告標章の称呼上の同一性の有無

(一) 原告らの主張

本件商標は、ローマ字で「CALGEN」と横書きされた構成から成り、右ローマ字と並べてその発音を表現した仮名文字の記載もないから、本件商標に接する取引者ないしは需要者は、その語学知識に応じてそれぞれの読み方をするところ、我国においては、義務教育の段階で英語が必須の教科になっており、また、日常用語としての外来語も英語が圧倒的に多く、外国語の中では英語への理解度が最も高く、外国文字の綴り方はまず初めにローマ字の綴り方を学習し、日本人はローマ字綴りによる読み方に最も親しんでいることからすると、本件商標のうち、「CAL」は英語の「CALCIUM」、「CALCURATE」等と同様に「カル」と発音するのが一般的であり、また「GEN」は、ローマ字綴りにおいて「ゲン」と発音されるから、本件商標は、「カルゲン」と称呼されるのが通常かつ自然である。

一方、被告標章は、片仮名で「カルゲン」と横書きした構成から成り、「カルゲン」と称呼されることは明らかである。したがって、本件商標と被告標章は、日本国内を市場とし、日本の一般人を需要層とする限り、称呼上同一である。

(二) 被告の主張

本件商標は、ローマ文字で「CALGEN」と横書きされているところ、「CA」は「」や「」とも発音され、「CAL」は「」や「」とも発音され、また「CAL」のLを発音しないで次のスペルに連音することもあり、「GEN」は「」とも発音されるから、本件商標が「カルゲン」と称呼されるものとは断定できない。

3 被告標章が法二六条一項二号にいう商品の生産方法を普通に用いられる方法で表示する商標に該当するかどうか。

(一) 被告の主張

被告標章は、本件商品が土壌改良剤カルゲンを使用して栽培されたものであることを表示するために用いられており、他の生産者や販売者と同様に「天然カルシウムカルゲン使用」という表現で、いちごの名称、品質、出荷者、産地等の表示と並べて表示されている。したがって、被告標章は、前記1(二)のようなその表示態様からすれば、普通に用いられる方法でいちごの生産方法を表示したものであることが明らかである。

(二) 原告らの主張

法二六条一項二号の趣旨は、業務を行う者がその商品について同号に掲げる商標を普通に用いられる方法で使用をする場合にまで商標権の効力を及ぼすのは妥当でないという点にある。そこで、業務を行う者が、当該商標を、特別の字体や相当程度大きな文字、或は図案化された文字を使用する等あえて一般の注意を惹くような特別顕著性を備える態様で使用した場合にまで、同号により商標権の効力を制限するのは妥当でない。したがって、商標権の効力が及ばない同号の商標に該当するか否かは、生産方法を表示する標章の外観が特に一般需要者の注意を引くような書体ないし図案により構成されているかどうか、及びその標章の表示態様が標章の付された場所や標章の大きさ等から特に一般需要者の注意を引くようなものになっているかどうかという観点から総合的に判断すべきである。

被告標章は、本件パックの上面において相当程度の面積を占めるとともに、いちごが頂部に配された地球儀を直感させる図形を含み、しかも、その地球儀を直感させる図形は、本件透明樹脂フィルム上唯一緑色が使用されており、そのデザイン性と色合いにより、本件商品を見た一般消費者の目を惹き付ける態様で使用されている。そして、被告標章中の「カルゲン」の文字は、「天然カルシウム」及び「使用」の文字に比して格段に大きく、また「天然カルシウム」及び「使用」の文字と異なり、特徴のあるデザイン文字が使用され、さらに緑色を背景として著しく人の目を惹き付ける態様で表示されているから、およそ生産方法を普通に用いられる方法で表示しているといえないばかりか、そもそも一般需要者にとって、「天然カルシウム」の「カルゲン」を「使用」したという生産方法の表示とも認識し得ない。したがって、被告標章は、本件商標権の効力が及ばないような態様で使用されているということはできない。

4 被告が本件商標につき法三二条一項に基づく先使用権を有するかどうか。

(一) 被告の主張

被告は、前記1(二)のとおり、昭和五六年から被告の商品であるいちごの生産に土壌改良剤であるカルゲンを全面的に使用するようになり、同年一一月以降、いちごのパック詰め容器を覆う透明樹脂フィルムに「天然カルシウムカルゲン使用」と記載したシールを貼付して、市場に出荷するようになった。昭和五七年には、カルゲンを使用して栽培した被告のいちごは市場で高い評価を受けるようになり、当時既に、需要者である市場関係者の間で、右シールに記載されている「天然カルシウムカルゲン使用」の表示は被告のいちごを表示するものとして、広く認識されていた。被告は、昭和五七年ころから、右シールの貼付に替えて、同じく「天然カルシウムカルゲン使用」との表示を行うために被告標章を直接透明樹脂フィルムに印刷するようになった。右シールの表示と被告標章の表示とは、上部にいちごの形状を模した図形を配しているか否かが相違するだけで、その要部である「天然カルシウムカルゲン使用」の文字やその背景に描かれている地球儀の経緯度線様の図形は共通している。被告は、右のとおりこれらの標章を昭和五六年一一月以後使用しているので、本件商標の登録出願日である昭和六一年七月一七日の時点において、被告標章は、被告の販売するいちごを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものである。よって、被告は、本件商標の先使用権を有する。

(二) 原告らの主張

法三二条一項は、本来的に過誤登録の場合の救済規定である。すなわち、同条項所定の未登録商標がある場合、他人は、法四条一項一〇号によって、同一商標の登録を受けることができないが、それにも拘わらず誤って右同一商標が登録された場合に、あえて無効審判を経るまでもなく、当該未登録の周知商標を使用することを認めるものである。したがって、法三二条一項の「広く認識されている」という要件の意義は、法四条一項一〇号のそれと同じである。それ故、原告らの本件商標が現に商標登録されている以上、一般的には、本件商標の登録出願の際に、「カルゲン」という商標が被告の生産・販売するいちごを表示するものとして需要者の間に広く認識されている事実は存しないものと推測される。

また、法三二条一項にいう「広く認識されている」とは、商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の需要者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位に止まらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって少なくとも需要者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要する。ところが、いちごの需要者は一般消費者であり、この一般消費者には、既に被告の生産、販売するいちごを購入したことのある者だけでなく、今後被告の生産・販売するいちごを購入する可能性のある潜在的消費者も含まれるところ、被告は、単に「カルゲン」という表示の入った本件透明樹脂フィルムを本件パックに被せていちごを販売しているだけであり、右のような潜在的消費者を含む一般消費者に対して「カルゲン」が被告の生産、販売するいちごの表示であることを広く伝えるための広告宣伝活動を全くしていないのであるから、原告らが本件商標の登録出願をした昭和六一年七月一七日当時、被告標章が被告の業務にかかる商品を表示するものとして、全国にわたる主要商圏の一般消費者の間に相当程度認識されていたり、あるいは、隣接数県の相当範囲の地域にわたって少なくとも一般消費者の半ばに達する程度の層に認識されていたことは全くない。また、市場関係者は、カルゲンを土壌改良剤と認識していたのであり、したがって、被告標章を被告の販売するいちごの表示として認識していたものではない。なお、昭和六三年七月に吉野石膏販売株式会社が指定商品を食肉、卵、食用水産物、野菜、果実等として「カルゲン」の文字を商標登録出願し、平成二年に株式会社坂田種苗本店が右商標登録を受ける権利を吉野石膏販売株式会社から譲り受け、指定商品を野菜及び果実に減縮する補正を行った後、平成四年三月三一日に、周知商標の有無の審査を経て、右商標が出願公告されており、右事実からも、原告らが本件商標の登録出願をした当時、被告標票が被告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていなかったことが明らかである。

5 本件商標権侵害による損害額

原告らの主張

(一) 主位的主張

登録商標の使用に対する対価は、一般には当該登録商標を使用した商品の販売価格の二パーセントないし三パーセントであるが、本件商標がいわゆるストック商標ではなく、健康食品、野菜及び果実について原告らによって実際に使用されており、また被告標章は自他商品の識別機能において大きな役割を果たしているから、本件商標権の使用相当額は商品販売価格の三パーセントを下らない。そこで、被告の本件商品の平成二年九月一日から平成五年六月三〇日までの販売総額は、前記のように四四億二六三九万六〇〇〇円であるから、本件商標の使用相当額はその三パーセントである一億三二七九万一八八〇円となり、原告は、本件商標権の侵害により右同額の損害を受けた。

(二) 予備的主張

被告は、被告標章の入ったシールを一枚二円で購入し、商品の差別化、個性化のために右シールを使用しており、すなわち、被告標章につき自他商品の識別機能を認め、被告標章一つにつき二円の使用料を支払っていたということができる。そして、被告の平成二年九月一日から平成五年六月三〇日までの販売数量は合計で四二八三トンであり、これを三〇〇グラム入りのいちごパックに換算すると一四二七万六六六六個分に相当するから、被告標章の使用料は合計二八五五万三三三三円となり、原告は、右同額の損害を受けた。

第三争点に対する判断

一 争点1について

1 被告標章は、前記第二の二4のとおりであって、文字、図形と色彩との結合であり、被告が業として生産及び販売する商品であるいちごについて使用するものであるから、法二条一項に定める商標に該当する。

ところで、法二五条は、商標権の効力として、商標権者が指定商品又は指定債務について登録商標の使用をする権利を専有する旨定めているから、法三六条一項及び三七条にいう商標権の侵害とは、登録商標の使用権の侵害を意味すると解される。そして、法三条は、自他商品の識別機能を有しない商標は登録できない旨定めているのであるから、法三六条一項により保護されるべき登録商標とは、このような要件に適合したものであり、また商標の本質は自己の営業にかかる商品を他人の営業によるそれと識別するための標識として機能することにある。そこで、右条項は、右のような登録商標が他の商標により自他商品の識別機能を妨げられ又はその虞れがある場合に、商標権者等がその侵害の停止又は予防を請求し得る旨を定めたものと解される。したがって、自他商品の識別機能を有しない商標の使用もしくは自他商品の識別機能を有しない態様による商標の使用は、登録商標の使用権を侵害するものということはできない。

2 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一、三、第六号証の一、二、第八号証ないし第一二号証、第一四号証の一ないし三、第一五号証ないし第一八号証、第二〇号証の一、二、第二七号証及び第二八号証並びに証人藤井富男及び同田中宗雄の各証言によれば、カルゲンは天然カルシウムとしての石膏を原料とした土壌改良剤であり、吉野石膏株式会社が昭和四〇年代後半から製造、販売を始め、一袋一五キログラム入りのものを昭和五二年には約三六万八〇〇〇袋、昭和五三年には約五二万六〇〇〇袋、昭和五四年には約七四万七〇〇〇袋を販売するに至り、(なお、昭和六三年以後は、年間三〇万袋未満のことが多い。)、多くの種類の野菜等の栽培に使用されるようになり、被告は、昭和五一、二年ころ、カルゲンを使用した農作物が良質品として農家や農業関係者に評判になっていたので、これを販売していた株式会社坂田種苗本店からカルゲンを購入して試験生産をしたところ、収穫量の増加、品質の向上等の効果があったため、昭和五六年の生産年度以降、被告の生産するいちごに全面的にカルゲンを使用することにし、これに伴い、市場において右使用を表示するため、右坂田種苗本店から別紙目録記載(三)のようなシールを購入し、いちごを詰めたパックのセロハン上に右シールを貼り、カルゲンを使用している旨表示して販売していたこと、右シールは吉野石膏株式会社がカルゲンの使用を表示するために作成したもので、一辺約三、六センチメートルの菱形で、緑色で枠取りし、銀色の地色に緑色で地球儀を直感させる図形を描き、その上に紺色で「天然カルシウム」「カルゲン」「使用」と三段に印刷し、「カルゲン」の字体は他より数倍太く大きいこと、被告は、昭和五八年から、右シール貼付の手間を省くため、坂田種苗の了解を得て右シールの態様を修正して被告標章を作成し、これをセロハンに直接印刷することにしたこと、なお吉野石膏株式会社は、昭和五二年五月ころから右シールばかりでなく、カルゲンが使用される野菜や果物に応じ数種類のシールを作成しており、直径約二、六センチメートルの円形で、緑色で枠取され、その内側は金緑色の地色で、地球儀を直感させる図形があり、その上に「天然カルシウム」「カルゲン」「使用」と三段に印刷されており、「天然カルシウム」「使用」の文字は紺色で、「カルゲン」の文字は紺色の帯状の部分に型抜の形で表示され、「天然カルシウム」「使用」より数倍の大きさのシール、右シールと同一態様であるが直径約一、五センチメートルの丸型シール、右シールと同一態様の直径約二、一センチメートルの丸型シール、縦約四、五センチメートル、横約六、五センチメートルの長方形の中に地球儀を直感させる図形を描き、その上「天然」「カルシウム」「カルゲン使用」(「カルゲン」という文字が他の文字より大きく強調されている)の文字を印刷したシール等があり、これらシールは、野菜等の生産者あるいは販売者等において、その商品であるトマト、西瓜、メロン等に貼付して使用しており、また百貨店がカルゲンを使用して栽培された野菜を販売するに当たり「カルゲン野菜」と表示している事例や、カルゲンを使用して米を生産する農家の中には、その生産米に「カルゲン米」という表示をしているものがあることが認められる。

3 そうすると、土壌改良剤であるカルゲンは、昭和四〇年代後半から生産され、多数の種類の野菜等の栽培に使用されており、昭和五二年五月以後はカルゲンを使用して栽培された野菜等を表示するため、これらの商品に「天然カルシウムカルゲン使用」と表示したシールが一般に貼付されており、右シールにおいて右表示のうち「カルゲン」という文字が強調されており、被告においても、昭和五六年にカルゲンを使用し始めて以後、その商品に右のようなシールの一種を使用し、被告標章は、右シールを修正して作成したものであり、そして、「カルゲン」等の文字を含む被告標章の大きさ(標章は、縦約三三ミリメートル、横約二七ミリメートル、「天然カルシウム」及び「使用」の文字は、縦横ともに約二ミリメートル程度、「カルゲン」の文字は縦横ともに約五ミリメートル程度)、態様、本件透明樹脂フィルムの大きさ(本件透明パックの上面の大きさは縦約一六五ミリメートル、横約一一四ミリメートルであり、本件透明樹脂フィルムの大きさはこれに準ずることは明らかである。)、態様等は、前記第二の二3及び4のとおりであり、被告標章はいちごが頂部に配されているが、地球儀を直感させる図形に「天然カルシウム」「カルゲン」及び「使用」という文字を表示し、そのうち「カルゲン」という文字を強調していることは、吉野石膏株式会社が作成している各シールと共通性があり、しかも本件透明樹脂フィルムの上部にはいちごの品種名である「博多とよのか」の文字が、下部には被告商品の出荷及び販売者の表示である、丸に囲まれた「糸」、デザイン化された「JA」及び「JA糸島」の文字、並びに被告商品の産地の表示である「福岡」の文字を図案化し字抜きしてある図形が印刷されているのであるから、これら事実に基づけば、被告標章は、被告商品に天然カルシウムであるカルゲンを使用していることを表示しているものであって、被告の商品であることを識別させるための商標として被告商品に付されているものでないことは明らかである。

4 ところで、原告らは、被告標章中の「カルゲン」の文字が、「天然カルシウム」及び「使用」の文字と独立した単独の表示として自他商品の識別機能を有する旨主張するが、被告標章はいちごのパックに付した本件透明樹脂フィルム上に表示されており、前記のような本件透明樹脂フィルムの大きさ、同フィルム上の各表示内容、その態様、被告標章及び「カルゲン」「天然カルシウム」「使用」の文字の大きさ、その態様を考慮すると、「カルゲン」「天然カルシウム」「使用」という文字はいずれも特別に大きく表示されている訳ではなく、接着して一体として表示されており、したがって「カルゲン」という文字だけが独立した単独の表示であるということはできず、右各文字が一体となって地球儀を直感させる図形とともに一の標章を構成し、天然カルシウムであるカルゲンを使用していることを表示しているものと解することができる。

二 よって、原告らの本訴請求は、その他の点を判断するまでもなく理由がないから、いずれも失当として棄却することとする。

別紙

目録(一)、(二)、(三)

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